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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

わしには分るな。それがどんな怨霊かは分らないが、襲ッてくることだけはたしかだよ」

というふうに、時もわすれ、舌禍の難も知らぬげに、残暑の蠅を、蠅叩きで、叩きながら、藤原氏の華奢我欲をののしり出すのである。

こうなると、いつ果つべしとも見えない気しきなので、きょうも、そこを訪ねていた常平太貞盛は、

「先生。……実は、ちょっと今日は、さるお方の許へ、寄り道しますので……」

と、逃げ腰をうかせた。――すると、道風は、

「アアそう……」とかろく舌鋒をおさめて、自分も、乾いた硯の蓋をしながら、

「寄り道? ……どこのお館。歌の会でもあるかの」と、たずねた。

貞盛が、いつも愛顧をうけている右大臣家の御子息、九条師輔さまの所へ――と答えると、急に、それで思い出したように、道風は、立て膝を上げて、かたわらの書棚から、一帖の書の手本を取り、無造作に、彼に托した。

「長いこと、お頼まれしていたのじゃが、気がすすまんのでね……放っといたが、ついでがあったので、書いといたよ。これを、師輔君に、さしあげてくれい。……書いてあげたところで、どうせ、ろくな手習いもしまいがね」

「かしこまりました。