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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

たくさんな奴婢、家人とて、信じられない。いわんや、大叔父たちを怖れている一族がいい顔して自分を迎えるはずはない。――こうふりかえると、帰国の途への不気味さは、都にとどまる空しさより、もっと暗い予感と、怨みとを、伴うのであった。

「……いや、今は帰るまい。帰ってもだめだ。おれさえ、一人前に成長すれば、自然、時が解決する。……また、いつかは、忠平公も、事情を知って下さるだろう。辛抱のしどころだ」

小次郎は、思い直した。

かくて、ひとりの輦舎人は、せッせと、輦の輪を洗い、牛を飼い、日ごと、参内する主人の轅に従って、勤勉を旨とした。

そして、大内裏の供待では――

「繁盛どのは、来ていないかしら。あの頼みは、どうなったろう」

と、いつかの約束による彼の返辞を楽しむことも久しかったが、繁盛の主人九条師輔の輦がここに見える日でも、繁盛のすがたは、あれきり見かけない。

年は暮れて、延長二年の春、忠平は、左大臣に昇った。

任官式やら、諸家の賀の参礼やら、春日社参やら、ひとりの大臣の昇格に、朝廷も洛内も、まるで国家の慶事みたいに騒いでいる一日。――左大臣家の玄関へ、“勧学院の歩み”が賀をのべるために、練って来た。