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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页
天皇をはじめ、総じて、一夫多妻はあたりまえな慣いとされている世なので、この君が、忠平にとって、何番目の夫人というべきかなどは、詮索のかぎりでない。けれど、いぶかるべきは、かりにも、時めく大臣の愛人であるものが、いつのまにか、いつからここに住むようになったのか、邸内でも知る者がないのだった。それのみか、氏素姓を何よりやかましくいう階級において、この君の身元についても、誰知る者もないのである。
この不審が、もっとも露骨にささやかれているのは、下司の陰口といわれる通り、何といっても、下部の仕え人たちである。
「……見たか」と、いい、「……いや、見ぬ」といい。
「おれは、ちらと、垣間見たぞ」というのがあれば、「じゃあ、おれも何とか、いちどは覗いてみなくては」と、秘苑の花に妄想をもつのであった。なべて、高貴な上淫に異様な、妄念にこがれるのは凡下のつねで、そのささやきは、餓鬼が壁をへだてて、隣の食物のにおいに美味を想像するのと異ならない。声こそヒソヒソだが、凄じいの何の、いうばかりもない。
その紫陽花の壺へは、老家司の臣賀のほかは、庭掃除の舎人でも、男は、ゆるしなくは入れぬことになっているが――麗人を見たという幸運なる一人の雑色のはなしによると、「お年ごろは思いのほか、二十四、五に見られたが、それはもう、この世のひとと