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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

「親の許さぬ」などというのは、みんな義太夫道徳がこしらえてしまったもので、まったく文学の罪というの外はない。

簡単に昔の日本人の生活は粗野であったと片づけてしまう人もあるが、婚姻のモラルにしても固い束縛があったのである。私はかつて赤面したことがあった。信州の諏訪からちょっと西へ入った村のお爺さんに、若い時の夜遊びの話を人を通じて聞いて貰ったことがあるが、その答はじつに素朴で判り易かった。一ぺん約束すればそれが女房と決っていたんだというのである。今の私どもが考えてちっとも差支えないモラル、つまり愛して、嫁に貰うんだとか、貰った以上は棄てないんだという考え方が、古くから日本には続いていたのである。このことを何かの方法で証明したいと思っている。

今まで学問は、多く士族がしており、士族社会はその生活維持の必要から、いつも厳格な法則に支配せられていた。だから道徳が守られているのは当り前だということになってしまう。こういう社会ではなく、農村の自由な若者が、春先なんか勝手に野原へ出てお互いにつき合えるにもかかわらず、自身の判断で乱れたことをしなかったという点を考えてみる必要がある。