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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页
その土地を千束と呼んだいわれがあることによってつけた(千束は多分洗足なのであろう)。榎本御杖は、私が一時よく榎のことを書いて榎の杖に触れたことから、そして板垣小棠は、東京根岸のさる家の板塀越しに海棠が美しく望まれた印象から名づけた。なお私の養家先の柳田家は、家系の永続が困難な家で、そのたびに一族の安東、菅沼両家から養子を迎えたが、私の養父は安東家から来たので、安東と、その逆の語呂を合せて危西をつけた安東危西というのもあり、安東家とともに風伝流という槍術の師範の家菅沼の姓に、同家のあった美濃の国可児郡の郡名をとり菅沼可児彦と名づけたのもある。ちなみに風伝流という槍術の発祥は播州の明石である。
またこの一族の祖先は一時神奈川県足柄上郡山北の川村という土地にいたことがあったので、川村の姓に、島崎藤村をからかう気も手伝って、彼の本名春樹にちなみ、訓みを同じくして杳樹をつけたのもある。小野吾滑は、小野小町の伝説に現われる「あなめあなめ」の歌に由来し、清水松亭という名は古い知り人の名を借りた。森緑は私の祖母の祖母にあたる人の出身地福崎町の、いまの新町の森という家の名にゆかりをもたせ、森の色は緑であるからという理由でつけたのである。