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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页
おまけに少し飲みすぎると、翌日から寝てしまう。そのうち少し大患いしたことなどもあって、物心つく年ごろの私は、私なりにいろいろのことを考えてしまった。兄は、もう一人井上の次兄があったが、他家へ行ってしまっているし、長兄には子供が三人もあるのに、こんなに不養生で、身体が弱いとすると、両親を抱えて、私としても考えなければならないと思うようになった。もともと私は医者は嫌なのだが、一家を背負ってゆくためには仕方がない。万一の場合は医者の開業試験ぐらいは受けられるようにしておこうと、そんな悲愴な決心まで子供の私はしたのであった。その後兄はねることもよくねるし、飲むこともかなりよく飲んだが、それでいてだんだん大人しくなって、幸いなことには、とうとう七十五まで生きながらえた。
医者の方もなかなか繁昌して、万事が思うようになるので、一時は政治に興味をもち、千葉の県会議員になったり、一期だけではあったが、布佐の町長を勤めたこともあった。その町長になった時の記念として、面白いことに兄は利根川にはじめて橋をかけて、千葉の布佐と対岸の茨城の布川とを結びつけた。まるで布佐町長の兄の便利みたいな長い橋が、昔からあった有名な渡し場にかかったわけである。