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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

それでもうだめになり、お灸をすえられてしまうのである。これは子供にとってはいちばんいやなことであったのに、静雄だけはこれが効かなかった。「隣へ行って灸すえてもらって来たよ」と帰って来て話すので、「なぜそんなことをした」と聞くと「みながすえていて、お腹のためにいいっていうから、僕もすえてもらって来た」などという。つまりお灸を嚇しに使えないような不思議な子供であった。

そんな風にして、子供たちが次兄の使いふるしたペン先を集めたときのことを考えると、いまでもほほえましくなってくる。

その次にもう一度次兄が帰省したときは、すっかり変っていた。私はよく人に話すのだが、そのころは鹿鳴館の反動で、国粋保存主義の運動の最も盛んなときであった。兄は日傘をさして帰って来た。頭は無帽で何もかぶっていない。それから着物を着て袴をつけ、黒であったか白であったか、とにかく足袋をはいていたと思う。あるいは裸足だったかも知れないが、雪駄をはいていた。

「それ何だ」と聞くと、「これが国粋保存主義というもんだ」と答える。明治十九年のことであったろうと思うが、私はそれによって、国粋保存主義というものをはじめて知った。