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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

田山花袋といっしょに照尊院にいた時ある日、田山が、「今日は尾崎さんが来るから迎えに行かなくちゃ」というので、私もどんな人か、まだ尾崎紅葉を知らないので、神橋の傍まで随いて行った。向うから派手な浴衣に、チリメンの兵児帯をだらりと締め、何にももたずに来る二人連れがある。それが石橋思案と紅葉の二人だった。何を履いていたか、履物は憶えないが、いかにもどこか良い衆だなと思われるような暢気な恰好であった。

私もちょっと挨拶はしたことをおぼえているが、どちらかというと、そんな時には反撥をする癖があるので、話はしなかった。

紅葉と思案とは、日光ホテルに泊るというので、田山が案内して行った。ホテルは私らの泊った寺のもう少し奥の方であった。私どもの方はそろそろ懐中が乏しくなってきたので、「もう帰る」といい出したら、田山が「そんなに早く帰られちゃ困る」という。きかずにいると、「それでは国木田を呼ぶ」というわけで、私や中川その他の者が帰った後へ、国木田が行って、二、三カ月も滞在したのであった。このころから、いよいよ小説家になってきたが、それまでの彼は、詩人みたいなことをやっていた。