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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

浦賀に石渡というりっぱな家柄の旧家があって、私どもはこの家の兄弟をみな知っていた。上から順に秀吉、信太郎、雅治といい、上は学校を終らないで独立してしまい、次が工学博士、三番目の雅治は子供の時分から神奈川へ養子に行って、中村姓を名乗っていた。どれもなかなかのやり手であったが、ことに中村雅治は才気溌溂たる男で、台湾あたりで働くうちに、内田良平などという右翼の人とも、つき合いが出来ていたらしい。この中村は箱根環翠楼の鈴木英雄氏と親類になっているので、やはり同じ環翠楼出の小田原市長、鈴木十郎氏を頼って、いまは小田原に落着いているように聞いている。

同じく一高の仲間に入江一雄というのがいた。作州の人であったが、建築の清水組の分家にあたる清水連蔵という人に見込まれて、その養子になった。この入江が同郷の植物学者川村清一、鳥の学者川村多実二の兄弟と懇意にしていた。作州津山は古式の水泳、神伝流の発祥地であるし、ことに川村家はその家元であった。そこで入江と井上匡四郎とが話し合い、第一高等学校に一つ水泳部を作ろうじゃないかというわけで、川村兄弟を仲間に引入れ、清水組の賛成も得て、これをはじめることとなった。