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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

先生の旧蔵の書籍が古本屋に出るというのを聞いて、たった一冊、先生の著書の『日本口語文典』を買ってきた。たくさん書き入れのしてある本だった。ときにはジュネーヴの大学へ人類学の講義を聞きに行ったり、書物や辞書類をみせてもらいに行ったりしたが、どこでも大変親切にしてくれた。

ただ言葉の不自由な点が困った。ときどきは、ひとりごとでもいいから思いきり日本語でしゃべってみたいという気がしたこともあった。同じような悩みをもつ人たちが始めていたエスペラントの運動に加わってみようかと思ったことがあった。国際連盟の通訳室にプリヴァという有名なエスペランチストがいて、この人につつかれて私から新渡戸さんに話し、連盟でエスペラントを用語に採用する決議案を出そうとして話を持出したところ、大変な反対にあった。英仏が反対したばかりでなく、他の国の代表も、いまさらエスペラントを覚えるというのでは、学生がかわいそうだと躍起になって反対したので、とうとうものにならなかった。

こんなこともジュネーヴ時代の一つの思い出となったが、この言葉の問題では実際に考えさせられることが多かった。われわれ日本人は機会があっても、どうも避けるようにしてしゃべるけいこをしたがらない傾きがある。