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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

ともかく日本の神道の弱点は、その場合に応じてそれに相当するノリトをあげるということができなかった点である。中央の神主ですらそれが難しく、平田盛胤などという人は名家に葬式があると必ず頼まれて行き、いい声で哀れに長いノリトを読んでいたが、これなどにもどうかと思う点が多かった。

まだ葬式の時はそれでもいいが、何か特殊の問題が起った時に困ってしまう。相手が知らないからそれをいいことにして、どうにかごま化しているが、祭の種類と目的とはいくつもあるのに、ノリトの数はそれほどない。いちばん極端な例があらわれたのは、母が二十九年七月に死に、その九月に父自身が死んだ時のことである。

布佐の私どもの神主は、金比羅さんの行者からあがってきた、もと船乗りかなにかしていた男で、何時でもノリトは大祓いの時のものしかやらない神主であった。みればそれもふり仮名つきのものであった。大祓いというものは「先ぶれ」のようなもので、ただ場所を清め、心を浄める用意だけをするにすぎないものであるのに、人の最後をこのノリトで片づけられては、後に残る者の良心が済まなかった。父の葬式の時は私自身気持が非常に弱って、悲しみに何もわからなかったが、一年祭の忌あけには、もっと父の魂を引き留めておきたいし、とても大祓いのノリトでは気が済まず大変に苦しんだ。