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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页
というと、みないっせいに大急ぎで侍の方の生活をしだした。日本社会の面白いところで、反感をもっていたとはいいながら、憧れていたことが解る。
飯田などでも維新の際に兵力の不足を補うために、百姓の子弟をつれて来て調練をさせ、足軽とか徒士とかに入れた。御目見得以下という意味で、この連中のことを「以下」と呼んだ。養家の祖母の話に、身分のある侍の奥方たちが、以下の細君が来たのを見て「以下だ、以下だ」と蔑んだところ、相手は「タコとは申しません」といって逆襲したということであった。面白い話なのでいまだによく憶えている。また祖母の叔母にあたる菅沼のお婆さんという人はしっかりした婦人だったらしく、こんな話が伝えられている。
信州の高遠の城は丘の上にあって、大手の道は坂になっている。ある時、川尻という侍が城門の所で、理由があって人を斬った。そして菅沼の家に入って来て、「今人を斬って来た。どうぞ暫くの間休息させて下さい」という。菅沼のお婆さんは落着いて応対をし、「ああそりゃよかった。さあこちらへ入って一服して下さい」と座敷へ通して休ませておいて、正式に届け出た。そして、その同じ日にそこで腹を切らせたのだが、この人の姪に当る安東の祖母は、「あんな偉いお婆さんはなかった」