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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

あまり高い身分の出の人ではなかったらしい。しかし人間は素朴のようにみえた。日本語をおぼえるのには芝居を見るのがいいといって、あのころ赤坂にあった女ばかりの芝居へよく行っていた。細君はオランダ本国人と蘭印の人との合の子で、子供もたくさんあって、日本を引上げてからも手紙をよくよこしたが、その後どうなったであろうか。この人には私の方からも平気で日本語のむつかしい手紙を出していた。

どういうものか、弟静雄は、蘭領印度に興味を持っていながら彼を好かなかった。字引を出すのは感心じゃないかと私がいうと、静雄の方でも大急ぎで辞典を先に出してしまったりして、双方とも折合わなかった。

通訳官のフィッシェルという人もいたが、この人は面白い論文ばかり書き、いつも私にくれていた。教員上りの、大変熱心で親切ないい秘書がいて、私の所へはその人を通していろいろのことをいって来た。私の方でもオランダへ行った折、訪ねて行ったが、ちょうど留守で会えなかった。長崎出島のものなどたくさん集めているオランダの日本関係の博物館で働いていたが、もう死んだそうである。

最近では一年間、私の研究所へ勉強に来たアウエハントという人がいる。