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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页
それによって人々はむやみと興奮を感じていた。動作はちがうが、岡山辺でも、子供たちのうたう文句は播州と同じようであった。
関東地方では同じ行事を「十日ン夜の藁鉄砲」といっている。藁鉄砲であるから播州の行事に近いわけである。つまり動作の方は遠く離れた遠方同士が似ているが、歌の方は藁と石と違っても、距離の近い同士が似ているのである。それにしても、このごろになって私に判ったのは、この行事がそんなに旧くないということである。
はじめ親たちから聞いた話では、もとは旧暦十月は亥の月だから、亥の月の亥の日を選ぶ。第一の亥の日は殿様の亥の子だとか武士の亥の子だとかいって、村人は何もしない。二度目の亥の日を百姓の亥の子といって、村の人たちはこの日に餅をついて贈ったり、贈られたり、子供たちが藁鉄砲で地面を叩いたりするのだというのである。
今でも憶えているが、私の家などでもよくこの亥の子餅を貰った。菊の花のややうつろになった小枝を、必ず重箱の中に入れてあり、蓋をとると、プーンとよい香りがしたものであった。夜更けまで藁鉄砲をうっていたものか、翌朝学校にゆく路の両側に、土がてらてらと固くなっている所が、あちこちに残っていたのをおぼえている。