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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

親も郷里から来たばかりで何も知らなかったもので、もしも知っていたらいけないといったに違いない。船の往き帰り、向うでの乱雑さなど、とんでもない印象をうけて帰って来た。

もうよく憶えていないが、林の真中に御堂がある。信心のあついものはすぐ堂の近くに行っている。しかしその他の連中は、林の外側か、広い林の中かを、男女みな相携えて暗い所を歩いているのであった。そういう光景に吃驚して帰って来たことを覚えている。大塚戸の花火よりも異様な光景の方が印象に残った。

その後あれはどうなったろうか。人に聞くのもきまりが悪いから、聞いたことはないが、今でも大塚戸の花火はどうなりましたかと、聞いてみたいくらいである。そのころは花火のはじめなのであまり外では見られなかったらしい。川船というものも、その時はじめて乗ったので、ただただ驚くことばかりであった。

そんな行事の影響であったか、あるいは別々に起ったのかしらないが、その時分に念仏講というものが非常に流行ったものである。どこの家でも喧しいお爺さんお婆さんは、ことに片親になってしまうと、世間の者が勧めて念仏講に入れる。酒は朝から飲めないが、賑やかにお茶を飲んでしゃべったり、わずかな小遣で手をたたいたり何かして歌っている。