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ふたばていよだん

新編 思い出す人々

内田 魯庵

内田魯庵『新編 思い出す人々』。同一底本的分册已合并为一书。收入:二葉亭余談、淡島椿岳、鴎外博士の追憶、硯友社の勃興と道程、最後の大杉、斎藤緑雨、三十年前の島田沼南、美妙斎美妙、二葉亭四迷、二葉亭四迷の一生、二葉亭追録、明治の文学の開拓者、四十年前、露伴の出世咄。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,401 字 · 427 页

青空文庫

晩年暫らく相乖離していたのを衷心遺憾に思いながらも、最後の会見に釈然として何も彼も忘れ、笑って快く一時間余りも隔てなく話したのは切めてもの心遣であった。が、暫らく交際が途絶えていたので、硯友社同人や門下の人々は私の許には死亡の通知さえ遣さなかったが、永眠する前三月に紅葉と笑って最後の訣別を叙した私は、如何に疎隔していても紅葉を親友の一人と見ていた。

だが、自分の死期の迫ってるのを十分知りながら余り豊かでない財嚢から高価の辞典を買うを少しも惜まなかった紅葉の最後の逸事は、死の瞬間までも知識の欲求を決して忘れなかった紅葉の器の大なるを証する事が出来る。この紅葉の最後の頁を飾るに足る美くしい逸事は誰も知らぬと見えて誰の口からも世間に伝わらなかった。

紅葉は決して豊かでなかった。先年或る雑誌に、紅葉は生前三円五十銭の画だか骨董だかを買えなかったほど窮していたという逸話が見えた。紅葉は豈夫に三円五十銭やそこらのものを買えないほど窮していなかったが、こういう馬鹿々々しい誤聞が伝わるのも万更でないほど切詰めた生活であった。然るに不起の病に罹って、最早余命いくばくもないのを知りつつも少しも紊れないで、余り余裕のない懐ろから百何十円を支払って大辞典を買うというは知識に渇する心持の尋常でなかった事が想像される。