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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

そして、相変らず默って、お祖父さんの顔ばかり見つめていた。お祖母さんも、それっきり、念仏を唱えるだけで何とも言わなかった。

すると今度は俊亮が、

「次郎お菓子が食べたけりゃ、あそこに沢山ある。」

と、違棚の方に眼をやりながら言った。そこには見舞の菓子折がいくつも重ねてあった。

「もう口をあけたのが無いんだよ。……今度新しいのをあけたら、恭ちゃんや俊ちゃんと一緒にあげるから、我慢おし。」

お祖母さんが、はたから、ずるそうな眼をして次郎を見ながら言った。

次郎は急に不愉快になった。さっき「賢い」と言われたのまでが、皮肉に感じられて仕方がなかった。で、父に気を兼ねながらも、ぷいと部屋を出てしまった。

彼は、すぐその足で、二階にかけ上って、冷たい畳の上に寝ころんだ。

畳の上には、柿の枯葉が一枚舞いこんでいた。彼は祖母に対して、彼がこれまで感じていたのとは、ちがった反感を覚え出した。それは、今までのような乱暴をしただけでは治まりのつきそうもない、いやに陰欝な反感だった。そうした反感の原因が、祖母の言葉にあったのか、それを言った時と場所とが悪かったためなのか、それとも、彼の気持がこのごろ沈んでいたせいなのか、それは誰にも判断が出来ない。