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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
「大丈夫だ。父さんが抱いてやる。」
俊亮は、自分の両腕の上に次郎を腹這いさせて、ぐいぐいと深みにつれて行った。恐怖と安心とが、ごっちゃになって次郎の心を支配した。
「いいか、そうれ。……足をしっかり動かすんだ。手だけじゃいかん。……うむ。そうそう。……おっと、そう頭をもたげちゃ駄目だ。ちっとぐらい水をのんだって、死にゃせん。」
俊亮はめっちゃくちゃに跳上る飛沫を、顔一ぱいに浴びながら、そろそろと次郎の体を前進させてやった。次郎は一所懸命だった。そして非常に愉快でもあった。
しかし、その愉快さは長くはつづかなかった。それは、俊亮がだしぬけに、彼の両手を次郎の腹からはずしてしまったからである。
次郎は、はっと思った瞬間に、顔を空に向けたが、もう間にあわなかった。彼はがぶりと水を飲んだ。鼻の奥から頭のしんにかけて、酸っぱいものがしみ込むような痛みを感じた。それからあと、彼は全く死物狂いだった。
しかし、その死物狂いは、ほんの一秒か二秒ですんだ。そこは彼の腰の辺までしかない深さのところで、彼はすぐひとりで立ち上ることが出来たからである。
「わっはっはっ、苦しかったか。