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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

」

俊亮が、すぐうしろで大きく笑った。次郎は声をあげて泣きたかったが、父の笑い声をきくと泣けなくなった。で、げえげえ水を吐き出したり、鼻汁をこすったりして、しばらくごまかしていた。

「沈むと思った時に、口をあいて顔を上げたりしちゃいかん。思い切って、息を止めてもぐるんだ。いいか次郎。ほら、父さんがやってみせる。」

俊亮は顔を水に突っこんで、そのでぶでぶした真っ白な体を、蛙のように浮かして見せた。

「どうだい。」

と、彼は顔をあげて、それを両手でつるりと撫でながら、

「じっとしていりゃ、ひとりでに浮くだろう。浮いたら今度は手足を動かしてみるんだ。顔をあげるのは一等おしまいだよ。……どうだい、もう一度やってみるか。」

次郎は、流石にすぐ「うん」とは言わなかった。そして、父から五六間もはなれた、ごく浅いところに行って、ひとりで頻りに顔を水に突っこみはじめた。俊亮は砂に腰をおろして、にこにこ笑いながら、それを眺めていた。

最初の間、次郎の息は三秒とはつづかなかったが、だんだんやっているうちに、それが五秒となり、七秒となり、とうとう十秒ぐらいまで続くようになった。