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しのげんり

詩の原理

萩原 朔太郎

「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页

青空文庫

しかもいかなる場合に於ても、民衆が悦ぶものは詩的精神である。詩的精神以外の、どんな芸術も彼等は求めようと思っていない。詩そのもの! 民衆が欲するものは、常にただそれだけだ。

されば民衆によって読まれる文学は、常に必ず詩的精神のある文学である。例えば恋愛、人道、冒険、怪奇等の、すべて倫理感や宗教感に本質しているところの、抒情詩的、もしくは叙事詩的ロマンチシズムの文学である。試みに今日世界に於て最も広く読まれている文学が、だれの何の作であるかを考えてみよ。芸術的高級の作品としては常にユーゴーとトルストイである。そして特に『レ・ミゼラブル』と『復活』である。或はまたジューマである。バルザックである。到るところに、常に民衆によって読まれるものは、倫理感や宗教感を高調している文学である。抒情詩的もしくは叙事詩的陶酔感をあたえるところの浪漫主義的傾向の文学である。民衆は客観的芸術を欲しない。彼等の常に欲するのは、情熱的なる主観主義の文学であり、詩的精神のある文学である。

所謂「*大衆芸術」と称するものがこれによってまた民衆の間に喝采されている。文学ばかりでなく、演芸に、活動写真に、到るところの世界に於て、吾人はこの種の芸術を発見する。