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しのげんり
詩の原理
萩原 朔太郎
「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页
然るに日本の能にあっては、かかる形体上の写実を見ないで、意味が全体として感じらるべく、第一義感的なものを強調する。例えば能にあっては、歩行者が写実的な歩調をしないで、歩行それ自身の印象と気分をあたえるべき、或る芸術的な「歩く人」を造形している。また能に於ける「悲しむ人」は、形体の上で涙や悲歎を見せるのでなく、意味としての気分の上で、悲哀の心境を現わすのである。これをかの活動写真が、実に涙の流れている実況までも、大映しにして見せる丁寧な写実主義と比較すれば、東西地球の相距ること、正に煙外三万里の感がある。
美術に於てもまた同様である。西洋の絵画や彫刻やは、部分的なるデテールの描写を丹念にし、実物の風景や人物やが、真にそこにある如き生き写しを主眼としている。然るに日本支那等に於ける美術は、始めから全くかかる写実を無視し物それ自身が有する本質的なる実有相を、直ちに全体の意味として捉えてしまう。故に例えば東洋の絵は、竹を描いても虎を描いても、その植物や動物が持っているところの、真の実有相なる直情性や猛獣性やを、形以上のメタフィジックな本質から直観し、意味それ自体を直接に強調している。