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しのげんり

詩の原理

萩原 朔太郎

「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页

青空文庫

あの上古から中世の終にかけて、巨獣のように横行していた古典の叙事詩や劇詩の類は、何故に近代の初頭に於て、一時に消滅したのであろうか。けだしその真因は、近代に於ける資本主義文明の発達にある。実に十八世紀以来に於て、急激な進歩をした欧洲資本主義の文明は、一躍して平民の社会を造り、過去のあらゆる貴族的なものを葬ってしまったのである。社会はデモクラチックになり、自由主義になり、そして時代思潮の傾向は、常に到る処に平和主義や、人道主義や、博愛主義や、社会主義やの、所謂文化的女性化主義へ潮流している。さればかかる社会に於て、古典韻文の如き形式主義の文学が、流行の外に廃棄されるのは当然である、特に就中、叙事詩の如き貴族趣味に属するものは、時代の来る先鋒に於て死刑にされる。

近代文学の黎明は、実に浪漫派の情緒主義によって開かれている。それは資本主義の平民文化が精神する、あらゆる反貴族的、反武士道的なものを表象している。換言すれば浪漫派は、クラシズムの形式主義に反感する、一切の自由主義的精神を代表している。すなわち彼等の新しい詩は、何よりも先ず情緒を重んじ、恋愛を讃美し、そして形式上には、古典詩学の窮屈な拍節本位に反対して、より自由でメロディアスな、内容本位のスイートな音律を創見した。