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しのげんり

詩の原理

萩原 朔太郎

「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页

青空文庫

この疑問に対しては、吾人は明らかに「否!」と答える。古来幾千の詩人の中、果して真に英雄的だった人物がどこに居るか。彼等の或るものは、時に或は勇士の如く、英雄の如くにふるまっている。しかもこれ外見のドラマにすぎない。真実のところを言えば、あらゆる詩人は女性的で、神経質で、物に感じ易い、繊弱な心をもったセンチメンタリストにすぎないのだ。(でなければどうして詩が作れよう。)一つの決定的な事実を言えば、詩に於ける一切のヒロイズムは、畢竟して「逆説的のもの」にすぎないということである。換言すればあらゆる詩人は、英雄的なものへの憧憬から、オデッセイやイリアッドの勇ましい、権力感の高翔した詩を作るのである。そして彼が「憧憬する」ところのものは、実には彼自身に属していないもの、所有していないものである。

そもそも詩の本質感は何だろうか。詩は「現在しないもの」への欲情である。現にあるところのもの、所有されているところのものは、常に没情感で退屈なものにすぎない。詩を思う人の心は、常に現在しないものへ向って、熱情の渇いた手を伸ばしている。そして実に多くの詩人は、彼自身の存在に鬱屈しており、自己に対して憎悪と嫌忌とを感じているのだ。