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しのげんり

詩の原理

萩原 朔太郎

「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页

青空文庫

なぜならばそれは主義でなく、理想というべきものでもなく、ただ具体的の思いとして、非概念的に直感されるものであるから。そして芸術に於ける批評家の為すべき仕事は、かかる具体的イデヤを分析して、これを抽象上に見ることから、或はトルストイについて人道主義を発見し、ストリンドベルヒについて厭世観を発見したりするのである。

同様のイデヤは、絵画についても、音楽についても、詩についても発見され、すべて本質は同じである。しかし就中、詩は文学の中の最も主観的なものである故、詩と詩人に於てのほど、イデヤが真に高調され、感じ深く現われているものはない。詩人の生活に於けるイデヤは、純粋に具体的のものであって、観念によって全く説明し得ないもの、純一に気分としてのみ感じられる意味である。芭蕉はこのイデヤに対する思慕を指して「そぞろなる思い」と言った。彼はそれによって旅情を追い、奥の細道三千里の旅を歩いた。西行も同じであり、或る充たされない人生の孤独感から、常に蕭条とした山家をさまよい、何物かのイデヤを追い求めた。思うに彼等の求めたものは、いかなる現実に於ても充足される望みのない、或るプラトン的イデヤ――魂の永遠な故郷――へののすたるじやで、思慕の夢みる実在であったろう。