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しのげんり

詩の原理

萩原 朔太郎

「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页

青空文庫

この事実を知るために、先ず音楽について考えよう。音楽は主観芸術の典型であり、純一に感情的な表現であるけれども、智慧のすぐれた観照なしには、その最も単純な小唄すら作り得ない。なぜなら音楽の表現は、音の高低強弱に於ける旋律とリズムを通じて、心の悲しみや喜びやを、それの気分さながらに描出するのであるから、音楽家が音によって心内の情緒を描くのは、画家が色や線やによって、外界の物象をさながらに描くと同じく、ひとしく対象の観照である。ただ両者の異なるところは、その対象が心内と外界と、時間と空間とに於ける別にすぎない。

抒情詩がこれにまた同じである。詩人にしてよく感情の機密を捉え、それの呼吸や律動やを真さながらに表現するのでなかったら、どうして詩が人を感動さすことがあり得ようか。そして「表現する」ことは、それ自ら「観照する」に外ならない。故にもし感情のみが高調して、これを観照する智慧が無かったならば、吾人は野蛮人や野獣のように、ただ狂号して吠え、無意味な絶叫をするのみだろう。けだし詩人と一般人と、芸術家と一般人との、ただ一つの相違が此処にある。前者はそれを表現し得、後者はそれを表現し得ない。