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しのげんり

詩の原理

萩原 朔太郎

「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页

青空文庫

さればいやしくも表現があり、芸術があるところには、必ず客観の観照がある。実に伊太利の美学者クローチェが言う如く、認識(観照)に無きものは表現に無く、表現に無きものは認識にないのである。吾人は知らないことを書き得ない。そして「知る」ということは、芸術上の言語で「観照」を意味するのだ。故に「観照」と「表現」とは同字義であり、したがってまたそれが「芸術」とイコールである。実に人間のあらゆる生活は、ひとしく常に考え、ひとしく悩み、ひとしく感じ経験している。しかも大多数は表現し得ず、芸術家のみが為し得るのは何故か。これ彼等にのみ恵まれたる特殊の才能、即ち所謂「芸術的天分」があるからである。

故に一切の芸術は、音楽であると美術であると、詩であると小説であるとを問わず、すべて皆観照によってのみ成立する。然るに観照されてるものは、その限りに於て客観的である故に、言語の純粋の意味に於ける主観――もしそうした言葉が言えるとすれば――は、芸術上に於て存在しないことが解るであろう。此処に於てか吾人は、表現としての主観主義と客観主義とが、どこで特色を異にするかを、さらに今一度考え直して見ねばならない。