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しのげんり
詩の原理
萩原 朔太郎
「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页
だが我々の日本人に取ってみれば、キモノや紙の家や足駄ほど、世界に於てプロゼックな事物はないのだ。我々にとってみれば、逆に欧羅巴の方がずっと詩的である。故に伊太利ヴェニスの芸術家等は、ゴンドラを焼打ちして水市を破壊し、自動車と飛行機の爆音で充填された、幾何学的コンクリートの近代都市を造れと言ってる。けだし彼等にとってみれば、あの黴臭い古都の空気ほど、没趣味で散文的なものは宇宙にないのだ。
同様の事情によって、都会人の詩は常に田園にあり、田舎人の考える詩は都会にある。前の例に於て、阿弗利加の内地や熱帯の孤島を詩的と考えるのは、煩瑣な社会制度に悩まされて、機械や煤煙やのために神経衰弱となってるところの、一般文明人の主観である。反対にそうした蛮地に住んでいる土人は、近代文明の不思議な機械や、魔術のような大都会や、玻璃宮の窓に映る不夜城の美観を眺めて、この上もなく詩的なものに思うであろう。現代の吾人にとってみれば、駕籠に乗って旅行することは詩的であるが、昔の日本人にとってみれば、これくらいプロゼックのものはなかったろう。むしろ彼等は、西洋の陸蒸気に乗って旅することを、無限の詩的に考えていた。