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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁

青空文庫

あっと、叫んだ時は勢いよく仰向けにもんどり打っていたのである。我れを突仆した稽古槍の先は、せつな、火の出るように覚えた眼の上をさっと翻り、道場の隅へすぐ投げ捨てられた音が、からからと聞えた。

「未熟、未熟。思うにそちはまだ業を蔵し、心開けず、手頭滅離、たとえば徒に騒いで風にも咲かず散らざる半開の花にも似る。わしはまた、明夜来よう。――おさらば」

静山の言い残して行く声なのである。

「あなや!」

泥舟は手をあげた。兄の名を呼んだ。枕から顛動して落ちた。

夢は、忽然と、醒めたのであった。

「…………」

満身の汗は、寝衣を湿おしていた。破戸の隙間洩る白い光は如月の暁に近い残月であった。

「ふしぎ? ふしぎ? ……」

解けぬ謎に髪の毛はそそけ立っている。しかも、兄静山の一語一句、その音声までも、ありありと耳に残っている。われとも知らず泥舟の頬には、滂沱たる涙が止まらなかったのである。

次の夜も、彼は、同じふしぎを体験した。弟よ、約束によって来りしぞ、はや道場に出よ。と静山は呼ぶのであった。

「おおっ」

と泥舟はもう何の遅疑もなく道場へ出た。

「兄と思うなっ。汝の敵と思え!」