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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁

青空文庫

二

「お待たせいたした。御厄介ながら」

と、案内を乞うた。

そしてふと、もう一度、子や孫たちの姿を振顧ったが、五郎右衛門の顔いろが何となく蒼白く見えたので、

「そちは昨夜、充分に睡りをとらなかったとみえるな」

と、訊ねた。

五郎右衛門は、はいと頷いて、

「旅籠の蚤や蚊が気になって、まじまじと眼ばかり冴え、明け方になってすこしばかり眠っただけでした」

と、有りのままに答えると、石舟斎は袂から少量の紅殻をふくませた打粉を取出して、

「貴人の前へ出るに、そのような憔悴した面をもって、お目通りに伺うものではない。病者かと御覧ぜられるだけでも御不快であろう。これで程よく頬を刷いて、不つつかのなきように心を慥乎と持てよ」

と、訓えた。

二

仮屋と云っても、二の間三の間もある。わけて主室はかなり広い。

涼やかな藺筵が敷いてある。大名らしい客が二、三名、ほかに天海とよぶ僧、大徳寺の和尚などが座にあった。武将は各※(二の字点、1-2-22)武装しているが、座談は至極気らくらしい趣であった。

柳生谷に古い豪族ではあるが、今は無禄の郷士にすぎない。当然、柳生父子は庭へまわって、地上に座を占めた。