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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁
六
お慕かしい兄上の許へ行って」
ふっと、彼はそんな気になった。仏間を閉じて、腹を切ろうとしていたのである。
「――あれッ、お兄様っ」
ふと見つけて、仰天した英子は、悲鳴に似た声で、人々を呼び立てた。
来合せていた山岡鉄太郎も、駈けつけて来て、
「ばかなっ」
と叱りながら、謙三郎の手から白刃をぎ取った。
謙三郎は打伏して、人前もなく声をあげて慟哭した。人々は一時、彼は発狂したのではないかとすら疑った。
六
忍斎と号し、または泥舟とも称ったのは、ずっと彼の晩年ではあるが、便宜上、以下高橋謙三郎を単に泥舟で記してゆく。
二十一歳で養家の支柱となった泥舟に取って、唯一の心友は、何といっても亡兄の門友小野鉄太郎であった。
鉄太郎の実家は、泥舟の生家山岡家よりも、遙かに家格もよい家がらであったが、泥舟は養家の姓をつぎ、兄紀一郎は世を去って、山岡家の跡目もここに絶えんとしているのを知ると、
「自分で宜しければ、山岡家の相続人となってもよい」
と、捨て難い事情にあった小野家の跡目を他へ譲って、山岡姓を名乗る人となってくれたのだった。
それもこれも、悲愁の裡に沈んでいる泥舟を励ますためであった。