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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁

青空文庫

四

待てえっ。おーい」

「謙三郎どのう」

「お兄様あっ……」

後追いかけて来たのだった。

けれど泥舟の足の早さは驚くばかりであったし、それほど人々が呼ぶ懸命な声も耳に届かないのか、振向きもせず、蓮華寺の寺域へ駈け込んでしまったのであった。

「そこか。――此方か?」

と、手分して尋ねて来ると、今し泥舟は割腹しようとしている態なので、あっと、人々は仰天して左右から彼の身へ飛びついた。

八

昏々と眠り落ちていること数日、泥舟はやっと起きた。

起き出た彼には、以前と何の変りも見られなかった。

だが、その日。

「久しぶりに」

と、道場で彼と槍を合せた鉄舟は、殆ど、唖然たるばかりな驚きに打たれた。

「別人のようだ!」

と、鉄舟は唸いた。

「もう、自分などの寄りつける御身の技ではない。一体、これはどうしたことか」

と云って、いぶかしそうに訊ねた。

実に、泥舟の槍術は、その時から、自己も人も驚くほど、格段な進境を現わしたのであった。――どうしてと、鉄舟に問われても、泥舟自身にも分らなかった。

しかし、或る会心は、胸にあった。けれどそれは怪力乱神を語るに似て、人には語れないものであった。