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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁
六
やや後ろに離れて、わたくしどもまで、涙にむせびつつ、俯目に兄者人のほうを見てありましたところ、母うえが着せてあげた赤地錦の小袖、萠黄縅の鎧、太刀のこじり、いつまでも、石のように、ひれ伏してありましたが、微かに顫いていたように見られました」
「欣しさに。……さこそ、さこそ」
大きな歓びに会うたびに、久子は、良人正成を胸によび起した。そして、心のうちで、
(かようにござりました。こういたしました)
と、在りし日の通りに、歓びを、また自分のつとめを、胸のうちで報告した。
何かまた、それとは反対に、子たちに落度があり、自分のつとめに欠けたと顧みられる節のある時も、
(ふつつかを致しました。これからは心いたしまする)
と、胸に詫びることも、良人が世にある日の通りであった。
ここに移り住むまでは、観心寺にもいて、また、良人とは道契のふかい妙心寺の授翁和尚とも親しく、自然、彼女も信仰に篤かったが、有憂無憂の仏華は後世のながめであった。修羅の矢たけびを、厨の外に聞き、六人の育児、一族の融和、それから着る物、焚く物の欠乏などとも、年月長く闘って、内助にかくれきりながら、しかも強く、敵の矢風の中に立つよりも強く、生きて生きて生きぬいて来るまでには、世の常の菩提のねがいとは異うものがあった。