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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁

青空文庫

七

そして将軍家自身の熱心な実践と唱道も大きな素因となって、斯道の名人達人は、まさにこのときを陽春の魁として輩出した観がある。

学ぶ者が、熱烈なので、自然、柳生家にしても小野家にしても、うかうかはしていられない。

で、その秀忠を対象として、柳生家は柳生流の信条を以て――また小野家は小野忠明その人の信念を以て、これに教授していたこと勿論であり、異流同職、おのずから二家の教え方に、大きな相違があったことは否めない。

その相違を、ひと口にいうと、柳生家は柔らかにまた鷹揚に。小野家は、阿諛をきらい、率直に烈しい稽古を特色とした。

秀忠が、或る時、側臣たちをあいてに、座談のうえ、頻りと、剣道上の理論をならべていると、忠明があとで、

「理論に賢くなって、理論剣術の達者になられることは、もっとも禁物と申さねばなりません。とかく剣の哲理は、口さきではだめで、生死のさかいに立たないでは、何も云えるものではない。座上の兵法、畳のうえの水練など、弁口の士にとっては、ちょうどよい芸当ですが、心ある者の眼には、苦々しいものとしか見えませぬ」

こういう直言を憚らない小野忠明は、時に依って、苦言余りに直心に過ぎ、年経つほどに、将軍家からの気うけは次第に良くなかったようである。