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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁

青空文庫

三

明日こそは、兄弟とて、紀一郎も弟に負くるな。謙三郎も兄に負けるなよ」

と、云い渡した。

二

枯れ初めた初冬の草床が暖い日だった。物頭松平六左衛門の邸内に人がたくさん集まった。門脇から幕が張ってある。朝からずっと、鋭い掛声と、竹刀、木太刀、稽古槍の響きなどが続いている。

年々一回ずつ行われる幕府の旗本の子弟の武技試験であった。各組頭に通牒してあるので、組頭は当日名簿と人員を携えて参加する。山岡家の兄弟も、ここへ連れて来られたのであった。

人中である。兄弟はおとなしい。ふたり共、好きな道であるのでわき目もせず、飽きもせず、朝からずっと、各流各人の入り交わり、立ち交わって戦う試合をながめていた。

判者の中には、兄弟の先生でもあり祖父でもある人の顔が見えている。けれど父の市郎右衛門は来ていない。

そのうちに、山岡紀一郎、山岡謙三郎、と名を呼びあげられた。

「はいっ」

「はいっ」

兄弟は一緒に答えて、真ん中へ出た。かいがいしい支度が人目をひいた。

「御記録となって、上様のお耳にまで達するのですぞ。懸命にやりなさい」

世話人は励まして、二人へ同様な稽古槍を供えた。小剣士と小剣士との礼儀をするのが、人々を微笑ませた。