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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁

青空文庫

八

――芹・嫁菜・野みつばなどを」

「えっ、司令官の奥さまが」

「御戦死なすった与倉中佐の奥さままで、まだ五十日に満たない嬰児さんを背に負って、弾の来るなかを、芹を摘み、菜を摘んで、あなた方にあげたいと」

「…………」

喊声も、どよめきも、しいんと熄んでしまった。そして彼方此方の暗がりで、洟をすする声がながれた。手放しで泣いている兵もあった。

突然、敵の夜襲を告げる喇叭の音が藤崎台でつんざいた。だ、だ、だッと、赤い火光が闇を翔け狂う。どこかで獣群の吼えるような谺がする。

「来たっ。来るぞッ、ここへも」

「畜生っ、御座んなれだっ」

「ゆうべとは違うぞ」

塹壕の兵は、一斉に部署についた。

十六

――来ない、来ない、味方の援軍は来ない。

それとも、熊本附近まではすでに上陸していても、薩軍に遮断されて、こことの聯絡がとれずにいるのか。

いやそんな筈もない。援軍の総督軍はすくなくも何万という大軍であるはずだ。政府の陸海軍である。何で三千に足らない薩軍に阻まれていようか。

孤城の命数はもう旦夕に迫った。野戦病院の病棟も、その他の建物という建物も、傷病者の呻きでみちている。もうその人たちに与える食物すらない。