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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁

青空文庫

五

神子上典膳時代

一

「松坂へ帰ろうか。松坂へ帰ればよい師にも巡り会えように」

典膳は時々考えこむ。彼も迷い多き青年の二十歳へかかりかけていた。

郷里伊勢の松坂は武道の府であった。世に太の御所とよばれた国主の北畠具教卿は、卜伝直系の第一人者であった。その権勢、その流風を慕って、由来、伊勢路の往来には武芸者のすがたも多い。

神子上家は、世々、神宮のおまもりをしている伊勢の神職荒木田家に属す神苑衛士の家だったが、典膳がもの心づいた頃は、松坂在にひき籠って、母ひとり子ひとりの暮しであった。

その母に伴われて、初めて武道の師というものにまみえたのは、六ツか七歳ぐらいなときだった。

三神流刀槍道床

と、門の柱だったか入口かに懸けてあった雄壮な文字は、よほど幼いあたまに沁み入ったものとみえて、眼をとじれば成人したいまでも、その筆法の一点一画まで脳裡に思い出すことができる。

十三の時、彼は生れて初めて、戦争を見た。織田信長の伊勢攻略に潮して、精悍な軍馬が村にも入って来たのである。

滝川一益とか、明智光秀とか、木下藤吉郎とかいう敵将校の名なども、小さい反抗心にふかく刻みつけられた。