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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁

青空文庫

五

――泣くまじ。

と思うほど、母の眼、子たちの眼、一族の人々の眼は、あやしき熱さにかすんだ。

見送る母の側には、久子をまん中にして、ことし十六の正秀、十四の正平、十一の朝成の三児が、立ち並んでいた。

「――では母上」

正行は、すこし頭を下げ、

「これより出立ちまする。父君の御遺訓、母うえが日常の御庭訓、御旗に生かして翻す日は今です。ふたたび、お膝の許に、正行が身、生きては還りますまい。長いお愛しみ、死してもわすれませぬ。母者人にも、ようようお年、この後は正行をお愛しみ下されたように、御自身のおからだを御いたわりくださいまし」

人々は皆、頸を垂れたが、久子は常と変りなく、

「はい」

うなずいて見せた。

正行はまた、

「これより吉野の御所に伺候して、よそながら今生のおん暇を申しあげ、直ちに、賊軍のうちへ駈け入ります。弟正時は召しつれますが、正儀は御所より戻します。留守後々の事、正儀によう申してありますれば、お心づよく思し召されませ」

「そなたも、心おきのう」

列は正行を先にして、総門のほうへ進んで行った。門の外に、馬のいななきや、戛々と轡のひびきが聞えた。

「これ、ここで。