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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁

青空文庫

――大人しゅう、ここに居やい」

追いかけて、駈け出そうとする少年の正平や正秀を、久子は両手にひき寄せた。ここの水入らずな袂別のすむのを、さっきから待ちかまえていた僧衆や、下部らや、百姓の女房たちや、留守に残る将兵たちが、いちどにどっと、総門のほうへと、送りに雪崩れて行ったからである。

正秀、正平のふたりは、母のそばに怺えていたが、まだ幼い朝成は、母の手をかいくぐって、

「わしも。わしも行く」

と、駈け出した。

それを追って、

「あっ、和子様。和子様」

急いで抱き止めて戻って来た若い郎党がある。四男の正秀と同い年ぐらい。つい近頃、子供らの傅人に抱えられたという小冠者である。

寨の山の中腹に佇んで、じっと、此方を眺めていた、蔵六の眼を突然愕かせたものは、その小冠者の姿だった。

親の眼である。遠くではあったが、紛れはない。それこそ彼がこの城郭のうちに血眼で求めていた捕虜のわが子、小四郎綱高であった。

六

年暮もない、正月もない。

天日は晦く、人々はうつつだった。

人に病のあるように、天地にも災厄があり、国体にも患いの時代がある。かかる有るまじき世をも超えなければ、真の国礎は万代にすわらぬものとみゆる――と時の民ぐさは喞った。