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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁
「…………」
新介は、黙って聞いているが、いつも涙をこぼした。顔を横に振るたび、その顔から涙が飛んだ。
「わからぬやつ! 女のくさったようなやつ! 嫌いだっ、あっちへ退がれっ」
果ては、その涙へ、恐い顔を示して、家厳は大喝した。
それも、父性の大愛から迸る声以外なものではない。
ところが。
ことし天文十三年の七月には、その父が好むと好まないに関わらず――子が望むと望まないに関わらず――否応のない戦火が、柳生父子を、一つ戦場に捲き落した。
連年、鎬を削りあってきた宿敵、大和の筒井栄舜房法印順昭が麾下二十万石の領土の精兵を、挙げて、この小柳生ノ庄のわずか七千石足らずの小城ひとつを、取巻いて、
「三日のうちに踏みつぶして見せる」
と、豪語し、そこの山上山下、野も畑も部落も、兵馬に埋めてしまったのである。
新介は、こうした危急が、わが家の石垣の下まで迫ったのを眺めやると、
「もう父もお叱りはなさるまい」
と、生れて初めての武者ぶるいを――恐怖の快感を、鎧の下の血は楽しむのだった。
そして、昼夜必死の防戦に、彼は搦手から水の手までの線を死守し、父の家厳は、一族と共に、専ら大曲輪の指揮に当り、時には自身、大手の木戸まで出て、士卒と共に奮戦していた。