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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁

青空文庫

九

ずいぶん心をつけて、朝夕の御食、うまきようにして進じ申さるべく候。そもじ、いよいよ無事、一段の事にて候。ここもとの儀、気づかいの由、もっともに候。さぞさぞと思いやり候。

幸右衛門が赤穂へさして立ったのと行きちがいに来た十内からの手紙だった。さきに丹女から出した文の返しであることはいうまでもない。

つづいて、数日の後、また便りが届いた。――旅に在る日とか、何かの公用で、夫婦離れてある日など、こうして妻から良人から、交に筆の便りを交わすことの仲のよさは――今に始まったことではない。

(およそ、はた目にも、羨ましくもあり、見よいものは、小野寺夫婦じゃ)

とは、同藩の者からも、長年、範として、云われていたものである。

わけて今度は、その情も、さらに切なるものがある。十内のてがみには、また必ず、九十になる老母のことが書いてあった。

――存じの通り、われらは御家の始めより、小身ながら今まで代々百年の御恩にて、各※(二の字点、1-2-22)を養い、身あたたかに一生をくらし申し候。

身不肖にも小野寺家の嫡孫にて候、かようの時、うろつきては、家の疵、一門のつらよごし、時至らば、心よく死ぬべしと、思い極め申し候。