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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁
遂に、その日は来た。九月となった末である。大石内蔵助が山科を引払った後、在京の同志も、前後して江戸へ下って行ったが、小野寺父子も、いよいよ都を立つことになった。
竹之辻の浪宅では、一夜、極く内輪のものだけで、小やかな別宴がひらかれた。忍びやかに会した客は、十内夫婦の和歌の友金勝千秋、論語の師伊藤仁斎と東涯の父子、医師の寺井玄渓など、ほんの八、九名であったが、手狭な一室はいっぱいになっていた。
十内の姉の貞立尼も、手伝いに来ていた。ことし九十一となった老母は、どんな思いを抱いているのか、或いは、世のあらゆる音騒色相をあたかも春秋の移りのように諦観しきっているのだろうか、子の十内と、孫の幸右衛門のあいだに、ちょこなんと低く坐って、うす眼をふさいでいた。
「ああこれは……てまえが一昨年、御母堂の九十の賀に書いてあげたものですな」
仁斎は、床の一軸を見て云った。瓶には黄菊が挿けてある。墨の香と菊の香とが、薫々と和していた。
「父の詩ですか。父の仁斎は、まだかつて、人のために寿詩を作ったことがないのに、十内どのには、よくよく歓びを共にしたものとみえまする。わたくしが、吟じてみましょうか」