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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁
自分としては、なおさら、そうなくてはならない。たとえいかなる理があろうとも、この国の地上においては、臣下が君を弑逆した罪を、寛大にはすまして措かないのである。
「……迦羅奢。そなたは、卑怯であろうぞ。この苦しい忠興の意も汲まず、後に遺る子も思わず、この場合、何よりやさしい死を選ぶ所存か。たとえ忠興の側を別れ去ろうとも、妻ならば妻の道を、母ならば母の道を、もっと強く生きぬいて、しかも後に、大逆人の娘という汚名をも、雪いでみようとする気もないのか」
ふと、良人のことばが、一滴の甘露のように、心の底へぽとと落ちた。
迦羅奢は、常の聡明な自分に回った。ふだんは、良人は気短で気のあらい人と考えていたのが、今はあべこべにあることに気づいた。
うつつの庭から浮かび上がったように――
「参りまする。どんな山の奥にでも」
いつもの素直な声で答えた。
鏡に向い直した。そして静かに身づくろいすると、やがて、日頃の老女・侍女・乳母までを呼んで、別れを告げた。――わが子の与一郎へも、最後の乳ぶさを与え、たくさんな召使の涙の中に、その日の深夜、城の搦手門から山駕にかくれて、三つの松明に護られながら山へ落ちて行った。