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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁

青空文庫

おさしつかえなくば」

胤栄が、促すと、

「おう、すぐ参ろう」と腰を上げながら、伊勢守は、意伯と文五郎を振向いて云いのこした。

「明日は、当寺をお暇する。そち達はこれにおって、何かと旅行李の物など、取りまとめておくがよい」

伊勢守が立つと、胤栄は長い廊下を導きながら、今のことばを質した。

「どうしても明日は、御発足でございますかな」

「はからず長いことお世話になった」

「奈良から何処へおまわりですか」

「四国を経、九州へ渡ろうと思う」

「何やらお名残惜しいことで」

云ううちに、もう道場の床が見えた。寺院造りの太い丸柱のある広床は、講堂と云ったほうがよいかも知れぬ。

南都宝蔵坊の槍の道場といえば有名である。現住持の覚禅法師胤栄の槍も共に宇内に鳴っている。後に新井白石が本朝軍器考に誌すところの鎌槍――素槍に鎌を付けた工夫は、胤栄が晩年の発現といわれているから、伊勢守が同寺を訪れた頃は、まだそういう特色までは持っていなかったのであろう。

けれど毎日のように、ここの床を訪れて来る遠来の修行者と在住の法師たちとの間で、激しい仕合が行われていた。南都の僧俗にも稽古をうけに通って来る者が多かった。