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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁

青空文庫

二

兵法の舵をとりても

世のなみを

渡りかねたる

石の舟かも

処世の如才に欠けている自分の――いわゆる世渡り下手を喞って、彼はこんな歌を詠んだ。

石舟斎という号も、おそらくはそんな自嘲をもって――或いは超然たる自負心をもって、――その時代から自身の称としたのではあるまいか。自分の愚を、浮かぬ石舟となぞらえて、自嘲した和歌の作はもう一首みえる。

兵法は

沈みてあるぞ尊けれ

千代のながれに

朽ちぬ石ふね

二

七月。山城の国を中心に、大地震があった。

伏見の都市は、もっとも被害が多かったので、伏見の大地震といわれている。

もちろん大和も相当に震れた。

七、八百年も前から祖先代々住み古している柳生城の石垣なども、至るところ崩壊して、土の肌をむき出していた。

農家も傾いでいる屋根が多い。秋も近く、百姓はたださえ忙しいのに、各の家のことも措いて、

「お陣屋の石垣から先に」

と、その修築に集まって来た。

領主の資格がなくなってからでも、柳生城の周りの百姓たちは、石舟斎を見かけると、

「御領主さまが」

と、単なる口ぐせではなく、心からなついて、以前と少しも変るふうが見えなかった。

石舟斎も、子どもや孫どもを従えて、自身、諸所の崖くずれや仆れた門の修築を指図し、また自身手をくだして、泥まみれに働いていた。