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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁
六
しかし、盲愛ではなかった。
兵庫の天稟の才を愛したのである。事実、十六歳の兵庫は、すでに、叔父の五郎右衛門や宗矩をしのぐものがあった。
とはいえ、その五郎右衛門といい、宗矩といい、おそらく畿内の剣人では、比肩し得る者はなかった。
「もう何処へ出しても、独り歩きはできる者達よ」
と、石舟斎は、当人にも、他人にも、許してそう語っていた。
――が、世間の真ん中へ連れて行くことは、恐らくその日が初めてといっていい。しかも、征韓の大役にかかってからとみに落陽寂寞の感ある大坂城の老太閤に比して、今や次の時代を負う人と目されている徳川家康の前へ出るなど、余りにも、この山の子らには、唐突な曠がましさであったに違いない。
六
「支度はよいか」
一蓋の陣笠を手に、老龍はもう身支度をして出て来た。
「祖父様。こちらです、こちらです」
遙か、坂下の大手門のそばで、孫の兵庫が手招きしていた。石舟斎は、自分の早支度をひそかに誇っていたらしいが、
「やっ、もう出おるか、さすがに、若者どもの早さよ。そうなくてはならぬ」
と、負けたのを欣ばしげに、足を早めて降りて行った。
馬の口輪は兵庫が把る。