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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁
一刀斎は、わざとそら耳を装って、横を向いていたが、船頭はまた、強いて彼のほうへ、
「ねえ、お侍さん。そこにいるお武家さん。そんなものじゃありませんか」
と、是非の返答を求めた。
そう云われると、一刀斎も、衆に対して、「道」の誤まられることを惧れた。愚者の矇をひらいてやるのも修行者の任と思った。
「いや、ちがう。持って生れた腕ぶしでも、磨かない力は、俗にいう莫迦力、くそ力とも申すもの。そういうものに慢じていると、いつかはきっと身をやぶるだろう。其方はまだ人に負けた覚えがないというが、それらの武芸者が未熟なためで、決して、剣の法や術が無益なためではない」
懇ろに諭したつもりだが、その船頭は、いきり立って、やにわに船を岸へ着け、
「おい、ばか力が勝つか、剣法が勝つか、陸へあがって試そうじゃねえか。大勢の客衆のなかで、おまえさんのような田舎侍に子どもあしらいにされちゃ、あしたから大きな顔して淀の船頭はしちゃいられねえ。さっ、上がれ」
と、櫂をかかえて先へ跳び上がった。
大人気ないと思ったが、ぜひなく弥五郎も陸へ上がった。もちろんこの試合は試合というほどな勝負にもならず、船頭は得物とする櫂を相手にとられて、その頭を打砕かれそうになると、平謝りに手をついて謝った。