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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁

青空文庫

「おまえ、幾歳になる」

「二十一歳に相なりました」

「二十一にもなって、まだ質子か。よその国に飼われているのか」

「……はい」

「お前の体は、お前の体ではないのだぞ」

「はい」

「何でもはいはい云っているぞ。お前は意気地がないな」

「恐れ入ります」

「恐れ入ったら、俺の股を潜れ」

「はい」

「張合いのない奴だな。そんなに尾を振られては、おかしくない。……怒れ、怒ってみろ」

「…………」

「何を笑う。怒れと云っているのだ。こら、怒らないか」

脛を蹴った。胸を突いてみた。それでも新介が怒らないので、図に乗った藤勝は、いきなり彼の耳を掴んで引っ張った。

新介は、それでも逆らわなかった。犬のように引廻されていた。藤勝は、

「犬じゃ、犬じゃ、犬でも怒るが、この犬は、臆病犬だ」

突き離すと、その顔へ、唾を吐いて、逃げて行った。

新介は、懐紙を出して、顔の唾を拭きながら、さしたる血相も現わさず、静かに歩き出した。すると、物蔭から一人の武士が、寄って来て、

「新介どの、よい御修行だな」

と、その肩を叩いて慰めた。

――誰か?

と、振向いてみると、それはこの城に二ヵ月ほど前から滞留して、家中の士に剣の法を教えていた神取新十郎とよぶ新当流の武芸者であった。