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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁

青空文庫

三

「聞いたか。典膳」

と、善鬼は、革襷を綾なしながら、愍れむように典膳へいう。

「承りました。兄弟子ながら、白刃とあれば、御仮借はいたしかねる。御免を」

「よしよし。せめて、善鬼の髪の毛一すじなりと、斬って死ぬ気でかかれ。――典膳、はやく支度しろ」

「よろしいのです」

「なにっ」

「支度には及びません。いつでも」

「よいと云ッたな」

右の肘頭が、善鬼の顔半分をかくした。柄を握ったのである。身を斜めにして。

風を呼ぶかのように、善鬼が、うむッと、宙の気を嚥んだ。そして鞘口から刀身が走り出すことまだ半ばのうちに、典膳から、

「いざっッ」

と、凄まじい気を吹いて、はや一太刀先へ揮りこんだので、善鬼は、ばッと、踵を退き、さらにまた、相手の鋭鋒を避けて、二度まであとへ飛び退がってから、初めて、ぎらっと、鞘の内から焦けている大きな刀を引抜いた。

――相青眼というのか、彼も中段、典膳も中段に構えた。そしてふたりの剣尖から剣尖までのあいだは、十歩も離れていた。

いずれからにじり寄るともなく、その十歩が、七歩となり、五歩となり、三歩となり、はや相触れ合うばかりに見えたとき、石の上から突然腰をあげて、一刀斎が大喝した。