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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁

青空文庫

彼女の胸に凝って今もかわらぬ根本のものは、やはり良人正成の満身にながれていたものであった。ひとつ血の夫婦が、良人の世にあるうち、常に語い合っていたことは、この国に生れた幸であった。無窮な国体のうえに生を保つ安心であった。大君の恩であった。これも大御民のひとりびとりぞ、と見まわす家庭と家の子らであった。

久子は、正成に嫁してから、かねがねおぼろに抱いていた考えを、さらに慥と、信念づけられた。子を生し、世が騒がしくなるほどに、またその信念は、よけい強められて行った。

末子の朝成を生んだ翌年。延元の元年五月。

湊川に戦死した良人の首級を、やがて敵方から送られ、その変り果てた面を、観心寺の一室に迎えて、仰ぎ見た時も、あのまま泣き絶え果ててもしまわずに、心と心とで、語りあうかの気もちを抱き、生ける時の夫婦以上の誓いをも、その刹那ひそかに成し得た意志の力も、後に思えば、やはり生前良人から知らず知らず享けていた国本の大義に明らかな眼があいていたお蔭であった。それと、武夫の妻たる日頃の覚悟と、弥陀の御さとしの助けであった。

「正儀」

やがて静かに、久子は呼びかけた。