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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁
元より上手に舞おうなどとは、みじん思ってもみなかった。ただ祈るのは、この舞が、良人の恥辱にならないことであった。義経の妻として世の物嗤いとなるまいとする懸命だけであった。
しずやしず
賤のおだまき くり返し
むかしを今に
なすよしもがな
――なすよしもがな
歌い終るのと一緒であった。彼方の頼朝夫妻の席で、断って落したように、ばらりッと、簾が落ちた。――その簾中から洩れる怒りの声だった。
「八幡の御宝前、しかも頼朝が前なるも憚らず、叛逆人の義経を、明らさまに、恋い慕って舞い歌うとは。――ゆるせぬ女、余を、余を、小馬鹿にした舞ではある!」
「あなたの御不興は、お身勝手というものです」
そうたしなめているのは夫人であった。
「何が身勝手か」
「流人として、伊豆の配所においで遊ばした頃のことを考えてごらんなされませ。私は、静の歌を聞いて、女子はやはり女子よと、思わず眼がうるんで来ました。……私が、配所にあるあなた様をお慕いして、闇の夜、雨風の夜も、通うた頃の心を思い較べると、かの女子の今はさこそと察しやられます。このようなことに、席を蹴って、御不興のままお帰りなどなされたら、坂東武者に、あなたの鼎の軽重を問われましょうが」